Region[リージョン] No.27 | 渕上印刷
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ピュアな表現を皆で支えるSHOBU STYLE数年後、福森さんは新たな問題にぶつかった。「メンバーの作業の弱点を隠す形でスタッフが修正し、仕上げをするから、メンバーの個性が出ていない、ありきたりの無難な商品が多かったんです。彼らの特徴を消すのではなく、彼らじゃなければできないものを作らなければ、と葛藤していました」。そして、転機となる出来事が起こる。福森さんが「木の皿を作ろう」とメンバーに木材を渡すと、全てが木屑になるまで完全に彫り切ってしまった。しかし、本人は満足げに、次の木材をくれと要求するのである。布の工房でも同様のことが起こった。刺し子の布巾を作るために作業を始めたメンバーが、ただひたすらに針を進め、ついには布巾をボールのような固まりにしてしまった。「障害の重い人は『彫る』、『縫う』という行為自体やその行為の繰り返しに面白さを感じていて、でき上がったものには全く関心を示さない。純粋に行為そのものを楽しむ彼らと、売れる商品を作りたいスタッフの間にはズレがあるとようやく気付いたんです。しかし、彼らの作るものにはエネルギーがある。布の工房を担当していた妻とも『商品にはならないけど、捨てられない魅力があるよね』と話していました」売れる商品を大量に作れば収益が上がり、園の経営は楽になる。できる人だけでものづくりをするほうが、効率も上がるかもしれない。しかし、福森さんは障害の重い人にも主体的に活動してもらい、生きる喜びを感じてほしいと思っていた。そこで、障害が軽度のメンバーとスタッフは売れるものづくりを目標に活動を行い、障害の重いメンバーは「表現活動」を中心に活動をすることにした。そのうち、捨てられずに取っていた布をバッグなどに加工し始めたところ、次第に評判となる。作為のない表現活動の中から光るものを拾い上げ、それを活かしていくという“SHOBU STYLE”が機能し始めたのだ。主体的に生きれば人間は強くなる「針一本で縫い続ける」をコンセプトにしたnui projectは、刺繍の概念を軽々と飛び越えた独創的な作品として国内外で高い評価を受ける。メンバーとスタッフで構成された音楽集団otto & orabuの演奏も人気だ。福森さんの指揮の下、メンバーは舞台を自由に飛び回り、観客を楽しませる。「彼らは自分自身の行為自体に価値を見出していて、人からどう思われるかなんて関係ない。彼らの表現は作為のない、ピュアなもの。もっと自由に、どんどんやってほしい。主体的に生きていれば、人間誰でも生き生きとして強くなりますから」otto & orabuに関する面白いエピソードがある。出番前の楽屋ではメンバーが出演を楽しみに、嬉しそうにしている一方、スタッフは緊張して落ち着かない様子だという。「緊張するのは、いいところだけを見せたいという気持ちがあるから。それでプレッシャーを受けている状態こそ『障害』ですよ。メンバーは自分の楽しみだけを追求していて、本当に自由。彼らを見て、人の目ばかり気にしないでもっと自由にならなきゃ、と僕も学んでいるんです」と福森さんは言う。福森さんには夢がある。それは学園内に小さな劇場をつくること。有名無名、園内外を問わず、自由な表現をする人たちの活動の場にしたいと考えている。「一法人として地域や人間に貢献したいと思っています。しょうぶ学園の運営テーマは『表現』。ここを拠点に、ピュアな表現者の活動を地域に発信し、そこから新しいことが生まれていけばと夢見ているんです」。幸福な村の村長にも見える福森さん。メンバーやスタッフと共に、その夢もきっと実現させるだろう。福森 伸(ふくもり・しん)1959年鹿児島市生まれ。社会福祉法人太陽会・しょうぶ学園統括施設長。社会福祉士。日本体育大学体育学部卒業後、アメリカを単身放浪。83年に鹿児島へ戻り、両親の営むしょうぶ学園で勤務を始める。木工を独学。85年に学園を引き継ぎ、園内の作業活動の総称を「工房しょうぶ」として活動開始。メンバーの自主的な表現活動を軸に、しょうぶ学園の活動全般をプロデュースしている。92年に始まったnui projectは海外でも高い評価を受ける。メンバーとスタッフから構成される音楽集団otto & orabuでは指揮を務め、作曲も担当している。メンバーと福森さんの間には「指導する側・される側」という空気は感じられない。園内のギャラリーでは作品を展示。隣りのショップで販売も行う。「受身にならず、商品を送り出すところまで見届けたい」と福森さん。18

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