Region[リージョン] No.28 | 渕上印刷 19/40

Region[リージョン] No.28 | 渕上印刷
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漫画や資料、インクが所狭しと並ぶ、西炯子さんの仕事場。時折聞こえる、愛猫がピチャピチャと水を飲む音以外は、しんと静まり返っている。西さんは資料の本を左手で抱え、資料と原稿用紙に交互に目をやりつつ、ペンを持った右手を休みなく動かし続ける。ほとんど迷うことなく、コマ割りやセリフ、キャラクターの輪郭が描き込まれ、漫画の下書きともいえる「ネーム」が見る間に仕上がっていく。「プロット作りに3~4時間、30ページのネームに7~8時間、作画作業に6日。仕事の終わる時間はだいたい見当がつきます。6本の連載だけでなく挿絵やエッセイの仕事もありますから、締切を常に前倒しして作業を進めています」。さらりと言う西さん。自分を厳しく律する職人のようにも見える。担当編集者の方に伺うと、西さんのネームは非常に完成度が高いとのこと。編集者にとってはありがたい、頼もしい存在だろう。「こういうことができるのは『職業訓練』のたまものなんです。学生時代は1日5~6時間、今は1日13~16時間ぐらい描いていますから。ピアノの練習と同じで、毎日休まず練習すれば誰でもある程度はできるようになりますよ」。ただ、「自分は『漫画家を夢見て日々漫画の練習を続けてきた努力の人』ではないし、『天賦の才能を与えられた人』でもない」、と西さんは言う。「職業選択と夢は別。私は夢を叶えたわけじゃなく、できることを仕事にしただけ。それがたまたま漫画家だったんです」人生は常に「アウェイ」西さんは教員だった父親の異動で、引っ越しの多い子ども時代を送った。ようやく友達と仲良くなれたかと思うと、ある日突然の別れ。そしてまた新しい土地で、人間関係を築かねばならない。子どもにとっては過酷な経験だろう。「うまくいかなくても誰も助けてくれないし、自分で何とかするしかない。どこに住んでも『仮の宿』で、落ち着ける場所がないと感じていました」と当時を振り返る。西さんの漫画には、周りに馴染めずクラスで浮いている中学生、男性っぽい外見から居心地の悪さを感じている女子高生、不倫に走る「アラフォー女子」など、悩み多き人物がしばしば登場する。「私の人生は常に『アウェイ』。だから困難な状況から人間関係をつくり出す設定が多いのかもしれないですね」小学生の頃から漫画が好きで、貸本屋で借りた漫画雑誌に載っていた「ベルサイユのばら」などを夢中で読んだ。漫画雑誌はなかなか買ってもらえず、そのうち自分で漫画を描き始めた。中学生になると友人に誘われて同人誌の制作に加わるようになる。高校3年の受験前には、勉強の合間を縫って雑誌『JUNE』の「竹宮惠子の漫画教室」に初投稿。これをきっかけに複数の雑誌に毎月のように作品を投稿し、19歳でデビューを果たした。将来は教員になろうと考えていたため、漫画で生計を立てる気は全くなかった。ただ自分の原稿がお金になることが嬉しくて、漫画を描き続けた。大学卒業後、西さんは鹿児島県内の小学校で、漫画を描きながらの教員生活をスタートさせた。しかし、その生活は2年ほどで終わりを迎える。「教員は自分の人生をかけて子どもと向き合わなければならない、責任ある仕事。片手間でできることじゃないとようやくわかりました。でも教員を辞めると言ったら家中大騒ぎになるのが目に見えていたし、だからといって漫画を描くことも止めたくない。どちらも選べずに引き裂かれるような毎日でした」。このままでは子どもたちのためにも良くな子どもから大人まで楽しめるストーリーと繊細なタッチの絵、深い人間描写で人気の漫画家、西炯けい子こさん。鹿児島県指宿市出身の西さんは、漫画の舞台のモデルに鹿児島を選ぶことも多い。創作や鹿児島への思いを聞こうと、東京にある西さんの仕事場を訪ねた。ノートにまとめられたプロットを見ながら、ネームを仕上げる。ネームの段階で既に「西炯子」の漫画だ。17

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