Region[リージョン] No.28 | 渕上印刷 20/40

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い。周囲の助言もあり、ようやく決心がついた西さんは教員を辞め、東京へ引っ越した。生活するにはお金が必要だ。その時、自分にできることは漫画を描くことだけだったという西さんは、期せずして漫画家として独立することになる。何でも出せる食堂のようにそれから25年。西さんは連載をいくつも掛け持ちする売れっ子となった。西さんの漫画でまず目を引くのは、繊細なタッチで描かれる細身の登場人物たち。少女漫画の枠にとらわれない、子どもから大人まで楽しめる重層的なストーリーや、内面に深く入り込むような人間描写も魅力だ。「何を描けば読者に一番喜んでもらえるかを常に考えています。20代から30代にかけて、いろんな人と会って話をしたり、音楽、演劇、落語などの芸能・芸術に触れてきたおかげか、何かないですか? と仕事を依頼された時にサッと提示できるようになりました。頼まれれば嫌とは言わない、何でも出せる食堂のようになれば食い詰めることもないだろうと」2010年には、西さんの作品が「このマンガがすごい」オンナ編6位、「このマンガを読め!」5位、「マンガ大賞」5位にランクインし、さらにファン層が広がった。ご本人は「人が群がっているところに、『何だろう?』と思った人たちがさらに集まってきたイメージ」と謙遜するが、ここ数年の作品は時代の空気に合ったキャラクター造形が特徴的だ。仕事に疲れ在宅勤務に切り替えた30代女性と初老男性との年の差恋愛、都会から地元へUターンした女性の恋愛模様などが描かれ、新しいファンの心をも掴んでいる。愛情を持って描く漫画の中の鹿児島鹿児島の風景が数多く登場するのも西さんの漫画の特徴だ。『娚おとこの一生』に登場する「角島県鶴水市」は鹿児島県出水市、『恋と軍艦』の舞台「小舟町」は指宿市山川がモデルとなっている。鹿児島中央駅や市電、県内の温泉地など、鹿児島人なら見たことのある風景が描かれることも多い。東京は自分の漫画の舞台ではないと思っていた西さんだったが、鹿児島を描くのは気恥ずかしく、過去に頼るようで卑怯な気もしていたという。「初めて鹿児島を描いたのは『STAY』という作品。アイデアがなかなか浮かばず苦し紛れに指宿を舞台にしたのですが、読者の反応も良かったし、物語も広がった。育った場所には生活実感があるし、いい思い出や愛情込みの鹿児島だから、自信を持って描けたのかもしれませんね」西さんの漫画に出てくる鹿児島の風景は、自身が育った頃の鹿児島を原風景として、そこに今の鹿児島の姿をモザイクのようにはめ込んでいるという。そのため2~3カ月に一度は帰省し、県内各地の写真を撮って回っている。西さんの目に今の鹿児島はどう映るのだろうか。「観光立県を目指すなら、もっと頑固に誇り高い鹿児島であってほしい。観光客に対して必要以上に下した手てに出ることはないと思います。そういうもてなし方は観光資源の何もない所がすること。『良ければ泊まっていくね?』『食べるね?』という感じの、キリッとした肌合いのもてなしが鹿児島には似合うと思うんですよ」と西さん。離れているからこその、愛ある言葉が気持ち良い。「鹿児島を舞台に描く漫画家は他にいませんから、今後も描き続けますよ。鹿児島も含めて、もう九州は任せとけ! って思ってます」西 炯子(にし・けいこ)1966年生まれ。指宿市出身。鹿児島県立指宿高等学校卒業。高校卒業前から漫画雑誌への投稿を始める。都留文科大学文学部国文学科在学中の86年、雑誌『プチフラワー』でデビュー。90年に上京し、漫画家として独立。代表作に『僕は鳥になりたい』(小学館)、『三番町萩原屋の美人』(新書館)、『STAY~ああ今年の夏も何もなかったわ~』(小学館)、『娚の一生』(小学館)など。現在、『恋と軍艦』(講談社)を始めとする6本の連載に加え、エッセイ執筆や挿絵の仕事も手がける。2010年から南日本新聞で4コマ漫画「のこのこ!」を連載中。漫画『恋と軍艦』。舞台となる「小舟町」は指宿市山川がモデルだ。町の人のセリフも、どことなく鹿児島弁風。机の周りに貼られた筆ペン書きのユニークなフレーズ。「筆ペンで書くと、言葉に力強さが生まれるのが面白い」18

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