Region vol.43
16/32

相手を受け入れて誠実であることだから自分の店では、本当に健康なものを提供したい。まずは自分が実践していこうと思いました」 当初、ランチは一日限定10食。手作りで、食材はなるべく地元の素材を使用していたためにこれが精一杯だったが、ほとんど予約で埋まったという。本当はコーヒーも地元のものを使いたい。しかし、コーヒーだけは純国産のものはない。それなら……。「自分で作ればいいんじゃないかと(笑)」。 調べてみると赤道を挟んで北緯25度南緯25度のコーヒーベルト地帯と呼ばれる場所がコーヒーの生育にはもっとも適していること、日本の徳之島や小笠原諸島でもわずかにコーヒーが生産されていることがわかった。「もしかしたら、生まれ育った沖永良部島でも栽培できるのではないか」と、コーヒーの苗木を100本植えてみた。父が元農協職員で、さまざまな農作物を育ててきたことも大きかった。2年後に初めて花を咲かせ、3年後に収穫を迎えた。小さな、それでいて確かな手応えを感じた。「思わず泣いてしまうくらい、うれしかったですね。それでもっと農場を拡大しようと、300本植えたんです。けれど植えてすぐに大きな台風が来て、100本しか残りませんでした。それまでほとんど父に任せていたのですが、これからは自分がなるべく作ろうと。今でも月に一度、一週間から10日ほど島に行っています」 うれしかったのは、被害にあった後、霧島在住の友人がわざわざ沖永良部島まで駆けつけて作業を手伝ってくれたこと。これまでの自分がしてきたことが、無駄ではなかったと感じた。 現在は店舗を移転し、ランチの営業をやめて自家焙煎コーヒーの専門店として新しく舵を切った。焙煎所も兼ねる店内では商品の販売を行っているだけでなく、カフェスペースでコーヒーとスイーツを楽しむこともできる。 また、百貨店やホテルに商品を卸したり、新しい商品を開発するなど少しずつ事業を拡大している。しかしそれとともに、周りから嫌みややっかみの声を聞いたことも正直あったという。そんな時、何よりも東さんが心がけたことは「誠実である」ことだった。 「新しい土地に来たからには自分自身も新しい考えを持ち、新しい付き合いの中で生きていく覚悟が必要だと思います。まずは相手を受け入れて敬うことも大切ですが、自分の信念は曲げないことも大切だと思っています。誠実さを持って、自分の筋を通したケンカはやってもいいと思うんですよ。でもそれって移住者だからとは関係なく、誰とでも、どこでも、同じだと思うんですよね」  出る杭は打たれる。しかし誠実さを持って接していけば、きっと味方になってくれる人もいるはず。そう強く信じている。  現在、店舗の会員数は1000人を超えた。沖永良部島産のコーヒー豆は、即完売するほどの人気だという。そんな東さんが、今描いている夢。それは沖永良部島のコーヒー畑を軌道に乗せ、いずれは観光農園として運営することだ。 「少し壮大に言わせていただくなら、国内産のコーヒーが生産・流通できるかどうか、ひとつのモデルケースになるのではないかと考えていて、その先駆けとして頑張らないといけないと考えています。もちろん、霧島の方々も大切にしたい。私のホームですから」  潔いほどの行動力。どこまでも明るい笑顔。忙しい日々を送る東さんの周りには、コーヒーの香りとたくさんの仲間がいる。右/焙煎方法などはすべて独学。調理師としての経験が役立ったという。左/沖永良部島のコーヒー農園。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 16

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です